====== William F. Kerka(1921–2013) ====== ===== ゴールデンエイジのレーサーを描いた航空図面家 ===== William F. Kerka(ウィリアム・F・カーカ、1921–2013)は、 アメリカの機械工学者・大学教員であると同時に、 航空史、とりわけ1920~30年代のエアレーサーに関する精密な航空機図面を残した人物である。 Cleveland State University では機械工学を教え、 工学部の Associate Dean(副学部長)も務めた。 一方、航空分野では American Air Racing Society(AARS)のために 多数のレーサー図面を制作したことで知られている。 Japanese Solid Model Archive では、 Gee Bee Model Z の資料を調査する過程で Kerka の図面に注目した。 彼の図面は、ソリッドモデルを製作するための資料としてだけでなく、 失われた航空機の形状を検討する航空史資料としても興味深いものである。 ===== 機械工学者としての経歴 ===== William F. Kerka は Fenn College of Engineering と Case Western Reserve University で学んだ。 第二次世界大戦中にはアメリカ陸軍に勤務した。 その後、Oregon State College(現在の Oregon State University)で 約2年間、機械工学を教えた。 1954年に Cleveland に戻り、 American Society of Heating and Air Conditioning Engineers の研究所に勤務した。 ここでは主として音響学(acoustics)を専門とした。 1961年、Fenn College の運営に加わった。 Fenn College はその後 Cleveland State University の一部となり、 Kerka は工学部の Associate Dean および Associate Professor of Engineering を務めた。 1981年に大学を退職し、 Cleveland State University の Associate Professor Emeritus of Mechanical Engineering (機械工学名誉准教授)となった。 2013年5月25日、92歳で死去した。 ===== Cleveland State University に残る記録 ===== Cleveland State University の Michael Schwartz Library が公開する Cleveland Memory Project には、Fenn College 時代の Kerka を含む写真が残されている。 写真の説明には、 > Prof. Kenneth Sherman, Prof. William Kerka & William Mitchell in Electric Motor lab, Stilwell Hall. とあり、Kenneth Sherman 教授、William Kerka 教授、William Mitchell が Stilwell Hall の Electric Motor Laboratory にいる場面として記録されている。 ただし、公開されているキャプションだけでは、 写真に写る3人のうち、どの人物が William Kerka であるかまでは明示されていない。 そのため、本アーカイブでは人物の位置を推定して表示することは避ける。 Cleveland State University には現在、 William F. Kerka と Margarita M. Kerka の名を冠した研究基金 (William F. and Margarita M. Kerka Endowed Faculty Research Fund) も設けられており、機械工学分野の研究支援に使用されている。 ===== American Air Racing Society と Kerka ===== Kerka の航空図面家としての活動を確認するうえで、 American Air Racing Society(AARS)は重要である。 1981年の ''Model Aviation'' は AARS を紹介する記事の中で、 > a magnificent line of 3/4-in. scale drawings by Prof. W.F. Kerka と記している。 つまり、Kerka は AARS のために 3/4 inch scale の航空レーサー図面シリーズを制作していたことが 同時代の資料から確認できる。 同記事では AARS が、 1929~1939年のエアレース時代を対象として、 図面、写真、ニュースレターなどを提供していたことが紹介されている。 1990年代の ''Model Aviation'' にも、 > William F. Kerka — series of racing aircraft drawings for the American Air Racing Society と記されており、 Kerka が AARS のレーサー図面シリーズの作者であったことが確認できる。 ===== Gee Bee Model Z ===== Japanese Solid Model Archive が Kerka に注目するきっかけとなったのが、 1931年のエアレーサー **Granville Brothers Gee Bee Model Z “City of Springfield”** の図面である。 本アーカイブでは、 W. F. Kerka 名義による Gee Bee Model Z の詳細図面を確認している。 この図面には外形だけでなく、 胴体断面、構造、各部寸法など、 模型製作および実機形状の検討に有用な情報が記載されている。 特に胴体断面や各部寸法には、 一般的な三面図だけでは判断しにくい情報が含まれているため、 実機写真や他の研究者による図面と比較しながら検討する必要がある。 今後、本アーカイブでは Kerka の Gee Bee Model Z 図面を、 写真資料および Robert S. Hirsch など他の図面作者による資料と比較し、 図面がどの資料をもとに作成されたのかについても検討していく予定である。 [[ja:references:drawings:gee-bee-z-kerka|W. F. Kerkaによる Gee Bee Model Z 図面]] ===== レーサー以外の航空図面 ===== Kerka の仕事は1930年代のエアレーサーだけに限られていない。 ''WW1 Aero'' の Drawing Index には、 Bill Kerka または William Kerka の名で、 第一次世界大戦期の航空機や飛行船の図面が複数登録されている。 確認できるものには、次のような例がある。 ^ 掲載号 ^ 機種 ^ 内容 ^ 作者表記 ^ | WW1 Aero No.141 | A.E.G. D.I | 1917年、第2形態、三面図 | Kerka, Bill | | WW1 Aero No.141 | Aviatik D.VI | 三面図 | Kerka, Bill | | WW1 Aero No.141 | Friedrichshafen D.I | 1916年、三面図 | Kerka, Bill | | WW1 Aero No.141 | Schütte-Lanz D.III | 三面図 | Kerka, Bill | | WW1 Aero No.145 | Siemens-Schuckert D.IV | 左右で異なる翼幅に関する図 | Kerka, William | | WW1 Aero No.141 | Zeppelin LZ62 / L30 | 構造および寸法 | Kerka, Bill | | WW1 Aero No.142 | Zeppelin LZ62 | 断面図 | Kerka, Bill | このことから、Kerka の関心は Golden Age のエアレーサーだけではなく、 第一次世界大戦期の航空機や飛行船にまで及んでいたことが分かる。 したがって Kerka を単に 「レーサー模型の図面を描いた人物」とするだけでは十分ではない。 機械工学の専門知識を背景に、 歴史的航空機の形態を図面として記録した **航空図面家(aviation draughtsman)** として捉える方が、その活動の実態に近いと考えられる。 ===== Kerka 図面の位置づけ ===== 歴史的航空機、とりわけ現存機がないレーサーを模型化する場合、 一枚の三面図だけを「正しい形」とみなすことには注意が必要である。 図面作者によって、 * 使用した写真 * 原設計図へのアクセス * 実測資料の有無 * 図面を作成した年代 * 模型製作用か航空史研究用か が異なるためである。 Kerka の図面についても、 それ自体を絶対的な正解として扱うのではなく、 実機写真、原設計資料、同時代の記事、 そして他の図面作者による三面図と照合する必要がある。 しかし、Kerka が大学で機械工学を教え、 本職として工学研究に携わった人物であったことは、 彼の図面を評価するうえで重要な背景である。 図面に記された寸法や断面形状については、 単なる模型用の概略図として扱うのではなく、 「なぜこの形状・寸法として描かれたのか」を検証する価値がある。 ===== Robert S. Hirsch との比較 ===== Golden Age のレーサー図面を多数残した人物として、 Robert S. Hirsch も重要である。 Kerka と Hirsch は同じ機体を扱っている場合があり、 両者の図面を比較することで、 歴史的レーサーの形状について新たな検討が可能になる。 現時点では Kerka と Hirsch の間に 直接的な共同研究・共同作図関係があったとは確認していない。 したがって本アーカイブでは、 両者をそれぞれ独立した図面作者として扱い、 同一機種について複数の図面が存在する場合に比較していく。 [[ja:references:people:robert-s-hirsch|Robert S. Hirsch]] ===== 今後の調査課題 ===== Kerka の航空史研究については、まだ不明な点が多い。 特に今後確認したいのは、 * AARS における Kerka の正式な役割 * 最初のレーサー図面が制作された時期 * AARS から頒布された Kerka 図面の総数 * 各図面の番号、機種名、縮尺 * Gee Bee Model Z 図面の作図年代 * 図面作成に使用された原資料 * ''The Golden Age of Air Racing'' に掲載された Kerka 図面との関係 * Robert S. Hirsch その他の図面との系統関係 * Kerka の単独肖像写真および大学年鑑資料 である。 これらについて資料が確認できた場合、 順次このページに追加する。 ===== 参考資料 ===== * ''Cleveland.com'', “William F. Kerka Obituary”, 2013. * Cleveland State University での経歴、Fenn College、音響研究、退職年などの基本資料。 * Cleveland State University, Michael Schwartz Library, ''Cleveland Memory Project — Fenn College School of Engineering''. * Stilwell Hall の Electric Motor Laboratory における William Kerka 教授を含む写真。 * Cleveland State University, Mechanical Engineering Department. * William F. Kerka を Associate Professor Emeritus として記録。 * Cleveland State University, ''William F. and Margarita M. Kerka Endowed Faculty Research Fund''. * Kerka夫妻の名を冠した機械工学研究基金。 * ''Model Aviation'', “Free Flight: Scale Sport”, 1981. * American Air Racing Society と Prof. W. F. Kerka の3/4インチスケール図面シリーズについて記載。 * ''Model Aviation'', “Radio Control: Giants”. * William F. Kerka の American Air Racing Society 向けレーサー図面シリーズについて記載。 * WW1 Aeroplanes, Inc., ''WW1 Aero Drawing Index''. * Kerka 名義の第一次世界大戦機・飛行船図面を収録。 ===== 関連ページ ===== * [[ja:references:start|資料・図面]] * [[ja:references:people:start|図面作者・研究者]] * [[ja:references:drawings:gee-bee-z-kerka|W. F. Kerkaによる Gee Bee Model Z 図面]] * [[ja:references:people:robert-s-hirsch|Robert S. Hirsch]] ---- **William F. Kerka**\\ 1921–2013\\ Mechanical engineer / Educator / Aviation draughtsman このページは調査の進展に応じて更新する。